有限会社鈴屋クリーニング代表 市村勇 電話 0427-92-3557 |
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クリーニング店をやってます。私はしみ抜きの名人というか、資格ももちろん持ってるんですけど、ほんとに落ちないものはないと思ってるんです。例えばペンキだとかね、ペンだとかで書いちゃってもね、ほとんど落ちますよ。白いのはほとんど百%落ちますよね。色物は無理ですよ。柄が落ちちゃうからね。真っ白なら落ちます。テレビでもオーバーにいってましたけど、まあ、長い間かかってここまでのぼりつめたというかね。技術がそれだけあるからみなさん持って来てくれるんですよ。全国からね、こういう日本エアシステムだとか、会社もしょっちゅうくるんです。これはやっぱテレビで見てって感じですけどね。値段はいくらかかってもいいっていうかね。それだけの技術を持ってる人はいないですよ。実際できないと思うし、クリーニング屋さんで私ほどやってるっていうのはこの業界では聞いたことないですね。 ええ、絵の修復と原理は一緒ですよ。むずかしい技術と、まあ、経験だね。なかなか出来ないってのはそこなんだよね。実際自分で体験して、体でおぼえていかないと。だから五年、十年なんてかかるわけですよ。(並んだ薬品についての質問に)ああ、いろいろな薬品も使いますよ。なかには危険なものもね。こういう容器に入ってるのはだいたい危ない、過マンガン酸カリウムとか亜硫酸水素ナトリウムだとかね、危ないの使うんですよ。過炭酸ソーダとかね。爆発しちゃうやつとかね。過酸化水素でこないだ爆発したじゃない。あの、ほら、首都高でトラックが爆発したことあったでしょ。ふつうはこんなもん使わないですけどね、どんどん突き詰めていくとこういうの使わないと落ちないって事がわかってきたんですよ。 簡単なのばっかじゃないから、中には1ヶ月や2ヶ月かかるものもあるんですよ。一度に抜いちゃうと、逆に生地をいためたりってこともありますからね、見きわめで時間かかるんです。消化酵素を選んで使ったり、薬を毎日ぬって徐々にとっていくものもあるし。新しいしみじゃなくて五年、十年てかかってるとそれだけ時間をかけないととれないんです。いきなり熱を加えたりすると変色しちゃったり、色が抜けちゃったりしますから。過酸化水素とかね、ちょっと使うとね。ま、実際たいへんなんですよ。落とすのは。いきなりは取れないんですよ。百万だしてもいい技術です。安いですよ。ふつうはこんなとこまでやらないと思うんです。
私もねいろんな仕事やってたんですよ、昔はボクシングもやったしね。いちおうアマチュアで全日本とったんですよ。うん。ローマオリンピックの候補にもいちおうなった。けっきょく出れなかったけど。あの、田辺ってのが銅メダルとった頃なんですけどね、いちおうランキングで6位まであがったんですよ。ローマオリンピックの強化試合とか出たんですけど、残念ながら行けなかったですね。プロになろうと思ったこともあったんですけどね、プロボクサー。世界は厳しいですからね。 でもね、この、なんていうかな、これにね、クリーニングに巡り会ったっていうのは、これはこまかい仕事ですけどね、自分の性格的にあってるんですよね。好きじゃないとだめですよ。どんなことやってもそうでしょ?やっぱり自分の好きな仕事っていうのは苦にならないしね。うーん、楽しいじゃない、毎日が。そうでしょ?いい仕事にめぐりあったかな、と思ってるんだけどね。いちおう大きなところにいればね、あの、役職にはなれなくてもそこそこのとこまではいってたかと思うんだけどね。うん。けど、しょせんはあれじゃない、宮仕いじゃん。そうでしょ?自分でやってれば自由がきくしね。 Q:どうやればこの仕事につけますか? 補正技術って事でいったら、ふつうはこの業界(着物の補正)はいるには内弟子になるんですよね。で、5、6年やって、そこから推薦うけてはじめて試験が受けられるんですよ。そういうあれだから、なかなかクリーニング屋さんではいないってことなんです。私なんかも脱サラ組でね、しょっちゅう失敗したりして、うん、それで弁償とかね・・大変なんですよこれ(笑)。これじゃいけないっていうんで、そういう道に、補正のほうに努力したっていうかね、うんそういうわけです。 (この資格は)なかなかとれない。1級は2回挑戦してるんですけどね、2回目でやっととれた。だってね二十年やってる人だってほんとにとれないんだから。実技でやるんですよ。ひとつひとつ大変な作業ですよ。実力がないと絶対とれない。何年やってもね。で、あの実技ともちろん学科試験もあります。それと1回で1級ていうのはとれないですからまず2級をとって、(2年に一回しか試験がないため)最短でも8年はかかりますよ。 補正の業界っていうのは、全国から着物が京都へ集まってくるわけです。それをまあ、染めとかしみぬきとかあるんですが、いろいろな補正の組合があって一括してやってるんですよ。呉服屋さんとのつながりでね。職人の世界です。ま、小さな看板一つだしてね、5、6人のお弟子さんがいて、先生がいてってところが多いんじゃないですかね。なかなか中を見せてくれないですから。もうね、聞いた話だけど、先生がいて、あの、お弟子さんとは部屋が違うっていうんですから。基本的なことは教えますけど、やっぱり最終的なものは教えたくないんだよね。だから自分で習得するというかね。 京都にすごい先生いますよ。お見事というか。一回ねこれはだめだろうと思ったんだけどね、送ってみたのよ。見事にとれてる。それはね、何代も歴史があるわけだからすごいですよ。私はとてもじゃないけどかなわないです。そういう人たちには。だけど、その人たちに洋服ができるかっていったらできないですよ。まったく違う。洋服なら絶対私は自信がある。着物はそりゃね、あれですけどね、洋服で右に出るって私は思ってますよ。だから洋服ならどれでもオッケーていうのは自信があるんです。
昔から何十年もやってる人がね、落ちないから頼むよって持ってくるからね、はじめ右も左もわからなくてこの業界はいって、今はもう逆転しちゃってるんですよ。技術的なことだけをみるとね。これはおもしろいですね(笑)。お客さんも喜ぶし、ほかで落ちるんだったらいいんだけど、ほとんど落ちないですから。それだけ長い年月かかったわけですけどね。 でもま、なによりもお客さんが喜んでくれるじゃない。感動してくれるじゃない。そうそうそう。そういう意味ではお金だけじゃなくて喜んでくれるっていうのは何ものにも変えられないでしょ?しみ抜き冥利につきますよ。喜んでもらえるのはね。 Q:仕事でつらいことは? 今の人はね、昔みたいに真っ黒になるまで着ないでしょ?こまめに洗うわけで。うちなんかではワイシャツの洗いなんかもやってるけど、昔はささらっていうんですけど、こういったたわしのへ先みたいなので衿をこすって洗ったりね、落ちないくらい汚れていたんですよ。今、洗濯機もよくなったのと洗剤も、洗浄力っていうんですかね、よくなってきてるからほとんどそういうことやるってのはないですね。昔は大変だったみたいですよ。いや、らしいですよ。私はねえ・・(そういうことを)やる時代じゃなかったからからよかったんだけど(笑)。 それだけ時代が変わってきてるんですけど、そのかわり値段は変わってないですよね(笑)。そうですよ、ほとんど変わってないんじゃないんですか。
いやあ、いちおうもうここまで来ればね、極めてるから。広くお手伝いができればとは思うけどね。とにかくしみで困ってると思うんですよみなさん。全国でこれだけ送ってきてくれるってことはね。反響があるってことは相当なことですから。社会のためにもなることだしね。(試験に合格した時)組合の理事長が書いてくれたんですけどね、「此の路はまだまだ此れからの精進です。次々と難しい仕事が来ます。それぞれ工夫して世の人の為になって一生を送って下さい。」てね。日々、技術は研究していかないと。資格をとるのは大変だけどね、到達点じゃないんです。
インターネットとかでやったら、クリーニングしてくれって人は少ないと思うよね。たぶん。でも、しみはおそらく困る。今でこそしみのないのを送ってくれる人もいるけどね。うん、つながりでねしみがないけど一緒にやっといてくださいって、けっこうあるんですよ。だけど8割方はね、クリーニング出しても落ちなかったとかね。そういう人が多いね。 大ざっぱにいえば、競争相手がないわけですから、今んところはね。それだけ技術を身につけるのに長い年月かかるわけですよ。あの、しみはどこ行っても落ちないんだからね。生き残るにはこれが一番。昔ながらの商売じゃ苦しくなってくる。特別な技術がなきゃこれからはむずかしいでしょう。大手が安売りしかけてきますし。うちなんかは料金のほうはまあまあふつうだと思うんだよね。でも、しみ抜きのほうは、実際できないと思うし、クリーニング屋さんでこれだけの料金とってる人はいないでしょう。ここまでやってるとこないんじゃないかと思うんですけどね。自負するわけじゃないですけど(笑)。 |