不定期連載
日本の未来 文・マリオ
二つの敗戦

以前から薄々と感じていたことがある。それはアメリカとの二つの戦争に敗れた原因についてである。太平洋戦争と経済戦争。この敗戦のパターンが非常によく似ているのである。この二つの敗戦を通して日本人の気質・行動・価値観などを少し考察してみよう。

太平洋戦争。
明治維新を起こした獅子達は植民地化を恐れ古い封建制を打ち砕き西洋文明を取り入れ近代化へと向かった。ここで一番問題になるのは日本国の基本となる憲法である。伊東博文以下明治の元勲は日本政府が薩長幕府に再びもどるのを非常に恐れた。そこで西洋の憲法を研究した伊東博文はビスマルクが1871年プロセン主導によるドイツ統一時に制定した憲法を採用した。このドイツと日本の憲法は基本的に同じである。この憲法は1850年に制定されたプロイセン憲法をベースにしている。

国王の権力:神の恩籠、大臣の任免
立法権:国王と衆議院・貴族院が共同して行う
行政権:国王に。また国王は法案の拒否権をもち、緊急勅令を制定できる。

国王を天皇に置き換えると明治憲法と非常によく似ている。ドイツは小さな王国で構成された連邦国家である。日本の薩長のようにある一王国の独裁を防ぐため議会に政府を組織する権限をもたせなかった。後年これがこの二つの国を暴走させる原因となるのである。

明治維新から時代は流れその西洋列強に恐れを持っていた元勲が日露戦争後すべて亡くなる。そこで憲法を忠実に解釈しようとする軍部が出てくる。明治の元勲が生きていたころはドイツの状況、憲法の成立過程などを理解しており、憲法になかった「政府」を大事にした。しかし時間とともに憲法の成立過程、本来の使命を理解するものが誰もいなくなったとき軍部は天皇を担ぎ出し暴走するのである。天皇の統帥権干犯問題である。

明治の元勲が生きていたころは日本が植民地化されるのを非常に恐れ西洋列強を警戒していた。日清・日露戦争での勝利、英国とのマレー沖海戦などでの快進撃。プリンス・オブ・ウェールズ、レパルス戦艦ニ隻を日本海軍がゼロ戦で撃沈。英国海軍全滅、日本海軍無傷。日本は無敵である。インド洋海戦、パールハーバー攻撃、ゼロ戦は神の飛行機であり、落ちない飛行機となった。

日本のリーダーは「神州不滅」「日本神国」を信じた。信長が明智光秀にやられたように「自分は神である」と言った時から警護・作戦などすべてが雑になった。日本のリーダーも信長と同じ間違いをした。日露戦争時は信長が桶狭間でとったような緻密な作戦を実践した。しかし「日本神国論」が出てくるともう戦争の作戦が雑になる。日本が破滅へと向かうきっかけとなったミッドウエィ海戦。機密事項であるべきこの作戦を街の芸者までもが知っていたとか。このような状況下でアメリカのスパイにもれないはずがない。またハワイ攻撃などあまりの連勝にアメリカを完全に舐めきっていた海軍は戦艦大和も行かせかった。作戦は雑で日本海軍は信じられないような無謀な行動を取った。例はいちいちここではとりあげないが。それから日本は破滅の道を歩むのである。

バブル崩壊のパターンも太平洋戦争敗戦の状況と非常によく似ている。日本は1971年ニクソン・ショック(ドルショック)、1973年第一次石油ショック、1978年第二次石油ショック、1985年のプラザ合意による円高ショックなどの困難を乗り越え1980年代後半にバブルのピークを迎えた。官僚は「ジャパン・アズ・No1」を信じ「欧米から学ぶものなし、欧米を越えた」と信じた。その途端アメリカからの攻撃を甘くみた。アメリカは日本の経済力封鎖の戦略を着々と進めていたのである。そして90年代から日本の経済は奈落の底へと落ちて行くのである。

このバブル崩壊の引き金を引いたのは1990年から始まる銀行貸出の総量規制である。
住専には貸すが銀行には貸さないとか。法律もない。一大蔵官僚の独断である。日本の官僚は法律に規制されない莫大なる権限を持っている。日本は本当に法治国家なのかと不思議に思われる事項まで官僚が握っている。新進党が一時政権を取りこのことが問題となり「省の中の省」、長年日本を牛耳っていた大蔵省が解体される。財務省と金融庁。しかしまだ彼らは隠し球を持っているのである。税務署である。税務署も早急に分離すべきである。日本のシンクタンクは真実を言えない。もし彼らの悪口を言えば即税務署が飛んできて意地悪をするのである。日本のシンクタンクは政府の御用聞きであり、世界中誰も信用しないのである。

第二次世界大戦の敗戦とバブル崩壊の「キーワード」はどちらも「官僚」である。
明治の元勲は命を賭け維新を成し遂げた。勿論「官僚」出身者ではない。維新後世の中が安定してくると「学問」で良い成績を取った人たちが「軍人」とか「官僚」になった。ペーパーテストのみ、実践なしの頭でっかちな「軍人・官僚」が日本を動かし始めた。
彼らが日本を牛耳るとき日本はいつも危なくなる。今がその「時」である。

時代は二つの大きな流れに分けられる。ひとつは「平時・安定期」そしてもうひとつは『戦時・激変期』である。いまの時代は「激変期」である。時代の流れをすばやく捉えないと日本はやられる。官僚が力を振るう時代は「安定期」であり、獅子が力を振るうのは激変期である。再度言うが「今は激変期」なのである。激変期には「獅子」を必要としているのである。
高橋秋正(たかはしあきまさ)
1950年津軽生まれ。金沢区在住。
71-73年十万円で世界32ヵ国を放浪。
97年『ひとりぼっちの地球街道』出版。
「生命力」を与える写真を撮りつづけたい。
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